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基礎研究-laboratory study-

バイオジェニックスによる鯉の免疫賦活効果

新穴あき病 感染防御試験

  • 錦鯉業界では新穴あき病という病気が恐れられています。新穴あき病は錦鯉の体表に潰瘍を作るのが特徴の致死率が高い病気です。
    感染力が強いうえに、抗生物質が効きにくいので、有効な治療が難しいことで知られています。
    1970年代に流行っていた穴あき病には抗生物質が効いていましたが、1996年ころから発生した新穴あき病は多くの薬剤に耐性を持っています。

    潰瘍ができた錦鯉は、たとえ生き残っても観賞価値は損なわれてしまうので、その被害は深刻です。

    新穴あき病の原因菌は非定型Aeromonas salmonicida(ひていけい エロモナス サルモニサイダ) が原因とされています。

    山崎研究所では免疫賦活効果があるとされる“混合発酵培養物”を使って新穴あき病を防げるか大阪府立大学との共同研究を行いました。

    今回試験使用した、“混合発酵培養物”は特定の納豆菌の1種、乳酸菌の1種、および2種の酵母を特別な培地で継代培養して得られた菌と菌の代謝物質です。生きた菌ではなく殺菌された菌体と菌が生成した代謝物に効果があるようです。
    この菌の組み合わせを用いて、理想的な環境で培養する事が重要です。たとえ、腸内に生きた菌を送り込んでも、腸内にはすでに他の細菌がたくさんいますから、管理された環境下で培養した時のような共生関係を得ることが出来ず、特別な代謝物を得ることが出来ません。

  • 潰瘍ができた錦鯉
    エロモナス サルモニサイダ

    エロモナス サルモニサイダ

新穴あき病を用いた感染試験

試験方法

混合発酵培養物が入ったエサを錦鯉10匹に給餌。
1ヵ月後に新穴あき病の原因菌に感染させ、再び1ヶ月間の経過を観察

新穴あき病を用いた感染試験

結果

生残率の比較 高水温期(22〜28℃)

30日後に鯉の生残率を比較しました。
混合発酵培養物が3%含まれたエサを食べた鯉は全て生き残っています。混合発酵培養物が含まれていないエサを食べた鯉は、70%が死亡しました。
さらに、病状の進行具合を一覧にしました。

病状の比較 高水温期(22〜28℃) 病状の比較 高水温期(22〜28℃)

生残率だけではなく、病状の比較を行いました。

3%添加区、0.5%添加区では、潰瘍を起こした錦鯉がおらず、最も重い症状でも初期出血の段階で留まっていました。さらに各症状に点数をつけて病変をスコア化し、経過日数ごとにグラフ化しました。

病変スコアの推移 高水温期(22〜28℃)

スコアが高いほど病状が進んでいることを示します。
対照区では日を追うごとに病状が進行していくことが分かります。それに対して、3%添加区では30日を過ぎても病変の進行を抑えています。

  • 攻撃菌再分離 高水温期(22〜28℃)
  • 試験終了後の鯉の体表や内臓に病原菌が存在するか検証しました。3%添加区の鯉では試験終了時にエロモナス菌が検出されませんでした。これは感染防御できたことを示しています。
    対照区では60%の鯉から菌が検出されました。病状が進むと他の菌の感染が激しくなるため、元々の感染菌が検出されない事があります。

生残率の比較 低水温期(12〜16℃)

同様の感染試験を、エロモナス菌の活性が低くなる低水温時に行いました。
菌の活性が低いため、生残率ではそれほど差が出ませんでした。
※培地のみ対照区は混合発酵培養物を作った培地そのものに効果が無い事を確かめるために実施。

病状の比較 低水温期(12〜16℃) 病状の比較 低水温期(12〜16℃)

病状の比較を行いました。

5%添加区では、ほとんど異常が出ませんでした。10匹中3匹で鱗の欠落や小さな膨らみが見られた程度です。
それに対して、混合発酵培養物が含まれていない対照区では、2匹が死亡し残りの8匹も潰瘍を形成しています。すべての個体で死亡するか、あるいは潰瘍の形成まで症状が進みました。

病変スコアの推移 低水温期(12〜16℃)

病気の進行具合に点数をつけてスコア化
スコアが高いほど病状が進んでいることを示す。

病変スコアの推移 低水温期(12〜16℃)

高水温時の試験と同様に、病状の比較を行いました。30日を過ぎても5%添加区ではほとんど病変が進んでいません。
それに対して、対照区では2匹が死亡し、生き残った残り8匹の鯉全てに潰瘍が発生している事が分かります。
30日位以降でも病変スコアが上がっていますので、もう少し試験を継続していれば死亡魚が増えていたかもしれません。

  • 攻撃菌再分離 低水温期(12〜16℃)
  • 試験終了後の鯉の体表や内臓に病原菌がいるか検証しました。5%添加区では菌が検出されず、感染防御できたことを示しています。
    対照区では30%の鯉から菌が検出されました。

まとめ

  • 高水温期では生残率に顕著な差が見られた
  • 低水温期では生残率に大きな差が無かったが、症状の進行に大きな差が見られた
  • 添加区では菌の再分離率が低く、新穴あき病に対して感染防御できたことを示している

混合発酵培養物の投与は、新穴あき病に対する感染防御の効果があると考えられます。