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基礎研究-laboratory study-

パラサイトクリア 寄生虫(ダクチロ・ギロダク)を安全に駆除

山崎研究所は、観賞魚のエラや体表に付く寄生虫(ダクチロギルスとギロダクチルス)を駆虫するレシピの開発に成功しました。
7種類のハーブ(オレガノ、ガーリック、シナモン、ジンジャー、タイム、レッドペッパー、ローズマリー)に含まれる抗菌成分、防虫成分の一定比率の組み合わせによって生まれる相互作用による駆虫効果を発見し、成分の調合に成功しました。

  • オレガノ

    オレガノ

  • ガーリック

    ガーリック

  • シナモン

    シナモン

  • ジンジャー

    ジンジャー

  • タイム

    タイム

  • レッドペッパー

    レッドペッパー

  • ローズマリー

    ローズマリー

ダクチロギルス、ギロダクチルスとは?

  ダクチロギルス ギロダクチルス
大きさ 0.8〜2mm 0.3〜0.8mm
適温 春〜夏(高水温) 秋〜春(低水温)
性質 魚体に付着して表皮の細胞や粘液を食べる
寿命 約40日(魚体から脱落すると1〜数日で死亡する)
分類 扁形(へんけい)動物 プラナリアなどと同じ
寄生場所 主にエラ 主に体表・ヒレ
繁殖方法 雌雄同体
卵生 胎生
幼生は水中生活し、寄生できないと2〜4日以内に死亡する 体内に仔虫、孫虫がいるため「三代虫」と呼ばれる
  • 金魚のダクチロギルス

    金魚のダクチロギルス
    Dactylogyrus dulkeiti

  • 金魚のギロダクチルス

    金魚のギロダクチルス
    Gyrodactylus kobayashii

写真撮影:キョーリン

  • 金魚の体表で粘膜を食べるギロダクチルス

    金魚の体表で粘膜を食べるギロダクチルス

金魚、メダカの体表への寄生イメージ

  • イメージ1
  • イメージ2
  • イメージ3
  • ダクチロギルス症、ギロダクチルス症、吸虫症とも呼ばれ、いわゆるエラ病の一因
  • 鯉、金魚、メダカ、各種熱帯魚に寄生する
  • どちらの寄生虫も種類は多数
  • 少数寄生の場合はほとんど症状が出ない
  • 河川、野池、流通・小売の水槽などいたるところに存在
  • 過密飼育、水質悪化で魚にストレスがかかると免疫力が落ちて大発生しやすい
  • 稚魚は体力が無いため寄生されやすく、重症化、全滅しやすい
  • 肉眼では見えにくい為、初期対応が遅れる
  • 傷口から細菌性・ウイルス性の病気に二次感染しやすい
  • 細菌の魚病薬や塩浴では寄生虫は死なず、粘膜を食べ続けるので、病気も治らない

水槽試験結果

メダカ 0週 1週 2週 3週
  寄生種 寄生率(%)
対照区 ギロダクチルス 100 100 100 100
ハーブ区 ギロダクチルス 100 60 20 0
金魚 0週 1週 2週 3週
  寄生種 寄生率(%)
対照区 ダクチロギルス 100 80 80 80
ギロダクチルス 100 100 80 80
ハーブ区 ダクチロギルス 100 70 40 0
ギロダクチルス 100 30 10 0

ハーブを混合した飼料を与えて3週間で、完全に駆除
ハーブ区に再び感染魚を入れ、通常のエサに戻すと、約1週間で寄生が確認された

屋外 鯉の稚魚池 試験結果

泥池(数万尾)に給餌開始から約1か月後20尾をランダム回収して寄生虫の数をチェック

試験区 寄生率
(鯉の尾数)
寄生虫数/匹
平均 範囲
ハーブ区 5%(1/20尾) 1匹 1匹
マッシュA区 65%(13/20尾) 5.4匹 2〜13匹
マッシュB区 90%(18/20尾) 6.7匹 2〜14匹
マッシュC区 100%(20/20尾) 5.8匹 1〜13匹

ハーブ区は鯉1尾に、1匹のダクチロギルスを確認したのみ。他の区は65〜100%、平均5、6匹の虫に寄生されており、症状は無く健康体に見えるが成長への悪影響が考えられる。
外部試験(錦鯉稚魚池)にて、10日後に平均5、6匹の寄生数から0匹となった報告もあり。

急性・慢性毒性試験

魚種 匹数 飼料(ハーブ配合) 試験期間 結果
メダカ仔魚 30 通常濃度 1ヶ月 生存率、成長率に問題なし
ミナミヌマエビ 5 2倍濃度 1週間 摂餌良好、問題なし
ミナミヌマエビ 5 通常濃度 1週間 摂餌良好、問題なし

メダカ仔魚、ミナミヌマエビでの急性毒性は確認されず


魚種 匹数 飼料(ハーブ配合) 試験期間 結果
メダカ 30 通常濃度 7ヶ月 産卵数、受精率、孵化率に問題なし
メダカ 30 2倍濃度 7ヶ月 産卵数、受精率、孵化率に問題なし
金魚(コアカ) 20 通常濃度 6ヶ月 異常なし
金魚(コメット) 20 通常濃度 6ヶ月 異常なし
錦鯉 20 通常濃度 6ヶ月 異常なし

メダカ成魚、金魚、錦鯉での慢性毒性も確認されず
安全性の高さが示された。

ハーブ経口投与のメリット

  • 魚病薬は、稚魚の奇形発生の一因となり得る
  • 薬浴中は給餌量が減少
  • 水量の多い野池などでは、薬はコスト高で使えない
  • 魚への副作用濾過バクテリアへのダメージがない
  • 現在、駆虫薬の入手が困難な状況

錦鯉稚魚の魚病薬曝露試験

方法

  • 供試魚:錦鯉稚魚(孵化後3日)
  • 魚病薬:トリクロルホン製剤
  • 対照区(0ppm)、規定濃度(0.3ppm)、 過剰濃度(3.0ppm)で1週間曝露し、その後通常に飼育
  • 透明骨格標本を作製して観察

試験結果

薬品濃度(ppm) 生残個体数 脊椎骨異常個体数
0(対象区) 1区 9 2
2区 10 2
3区 10 1
29 5
個体数% 17.2%
0.3(規定濃度) 1区 10 2
2区 10 3
3区 10 3
30 8
個体数% 26.7%
3(過剰濃度) 1区 9 2
2区 10 4
3区 9 6
28 12
個体数% 42.9%

選別される前の錦鯉の稚魚には通常一定数の形態異常が見られるが、トリクロルホン製剤曝露区において脊椎骨の異常個体数が多くなった。また、薬品濃度が高いほど異常箇所数が多く、重度の奇形が多く見受けられた。

  • 正常個体

正常個体

  • 脊椎骨の異常個体1
  • 脊椎骨の異常個体2

脊椎骨の異常個体

脊椎骨の異常箇所は正常な脊椎に比べ発育が遅れ、成長するとその部分で短躯や体幹部の変形が生じる可能性が高くなる。稚魚期のトリクロルホン製剤による薬浴は、奇形発生の一因となり得ることが示唆された。

給餌率別駆虫効果検証試験

これまでのハーブ配合飼料の試験は十分な給餌量(魚体重の約2%/日)で実施し3週間で寄生虫の完全駆除を確認していましたが、追試では他の飼料との併用を想定して給餌量を減らした際の駆虫効果について検証しました。

方法

  • 供試魚
    虫の寄生率100%のヒメダカ10尾×12区画
    平均寄生数:8.2匹/メダカ1尾
  • 水槽
    水量1L
  • 試験区
    対照区

    ハーブ無配合の飼料を総魚体重の1%給餌/日

    0.25%区

    ハーブ配合飼料を総魚体重の0.25%給餌/日

    0.5%区

    ハーブ配合飼料を総魚体重の0.5%給餌/日

    1%区

    ハーブ配合飼料を総魚体重の1%給餌/日

  • 試験内容
    給餌1週毎に1尾ずつ、ヒレ・体表の寄生虫数を光学顕微鏡下で測定・計数
  • 寄生種

    Gyrodactylus medaka Nitta and Nagasawa,2018

    寄生虫100㎛

試験結果

  • 寄生率
    ハーブ飼料区は給餌2週後から寄生数0(表中の緑色)のメダカが増え始め、4週後1%区において、完全に駆虫した(パラサイトクリア)
  • 寄生虫数
    ハーブ飼料区は、給餌率に比例して週を追うごとに寄生虫の数が減少する傾向が見られた。対照区の数値は、寄生数の多い斃死個体がカウントされないにもかかわらず平均寄生数が2週後まで増加した(3週以降は飼育密度の減少や生残個体の自己免疫力が理由なのか、対照区でも寄生数が減った)。
  • 斃死数(表中の赤×
    対照区は、試験終了までに各区3〜4尾のメダカが斃死したが、ハーブ飼料区は、給餌量にかかわらず各区とも1〜2尾の斃死にとどまった。

考察

ハーブ配合飼料を魚体重の1%/日食べさせることができれば、他の飼料を一部併用しても1ヶ月内に駆虫が可能であると予想される。また、0.25%以上1%未満/日の給餌量でも対照区に比べて斃死率の低下寄生虫の抑制効果が見られ、他の飼料との併用であっても寄生虫発生、増殖の予防効果が期待できるといえる。

  • 各区の生残個体に対するギロダクチルスの寄生率
    寄生率 試験結果
  • 測定日・水槽別、メダカ1尾あたりの寄生虫数カウントデータ
    試験区 試験結果