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基礎研究-laboratory study-

給餌方法でらんちゅうの成長と体形はどう変わるか

らんちゅうの成長試験

らんちゅうを飼育するにあたって、エサの与え方は最も気になるポイントの一つではないでしょうか。
何のエサをどのように与えるか?人によって様々な工夫やノウハウがあるようです。
エサの種類や与え方でらんちゅうの成長がどのように変化するか、山崎研究所で試してみた結果をご紹介します。

試験区は5区用意しました。

  • ペレット3%区
  • 赤虫飽和給餌区
  • ペレット飽和給餌区
  • 赤虫+ペレット飽和給餌区
  • 水かけ流し飽和給餌区

それぞれの区について説明します。
ペレット3%区は”らんちゅうディスク増体用”を魚の体重の3%与えました。通常の金魚の飼育では1.5%〜2%の給餌を推奨しているので、3%は相当大量の給餌量と言えます。
赤虫飽和給餌区、ペレット飽和給餌区はそれぞれ”クリーン赤虫”と”らんちゅうディスク増体用”を飽和給餌させました。
飽和給餌とは魚が食べなくなるまでエサを与える給餌法です。赤虫飽和給餌区は2時間程度で食べきる量を目安に1日3回与えています。ペレット飽和給餌区は残餌が出るギリギリの量を1日6回与えました。
赤虫+ペレット区は赤虫とペレットの両方を与えています。1日に6回、ペレット、赤虫、ペレット、赤虫という風にペレットと赤虫を交互に食べなくなるまで給餌させました。

かけ流し区は赤虫+ペレット区と同じ給餌方法ですが、飼育環境を変えました。
かけ流し区は常に新しい水を少量ずつ入れ続けて、いわゆるかけ流しの状態にしています。水替えはしていませんが、1日に1/5の水が替わる量を滴定しています。
他の区では1日1回水を替えています。

かけ流し区は水替えしないので、水質がほぼ一定に保たれます。水替えをするとらんちゅうの食欲が増すという事から、常に新しい水で飼育するとどうなるのか検証したくて、この区を作りました。

試験区の一覧
試験区 給餌量 給餌回数
ペレット3%区 ペレット3% 3回(9時13時17時)
ペレット飽和給餌区 ペレットを食べるだけ 6回(7時9時11時13時15時17時)
赤虫飽和給餌区 赤虫を食べるだけ 3回(9時13時17時)
ペレット+赤虫 ペレットと赤虫を食べるだけ 6回。ペレットと赤虫を交互に与える(7時9時11時13時15時17時
※赤字が赤虫
かけ流し区 ペレットと赤虫を食べるだけ 6回。ペレットと赤虫を交互に与える(7時9時11時13時15時17時
※赤字が赤虫

かけ流し区以外は220のプラ船に投げ込み式のフィルターを2個セットし、水替えを1日1回行いました。
らんちゅうは遺伝による違いを減らすために、同じ腹の稚魚を使用。
体長約1p程度の黒子で試験を開始しました。

試験は25匹から開始して、魚の成長に応じて育っていない個体から10匹になるまで魚をはじきました。この選別は成長だけに注目して、体形や奇形などは無視しています。選別に体形の要素を入れる事で試験者の恣意的な判断が入る事を恐れたためです。あくまでも機械的に体重のみを基準として選別しました。

試験結果

試験は4月末から開始、定期的に体重測定を行い、155日、約5か月間試験を行いました。
まず、魚体重を見てみます。
左軸が魚の体重、右軸が日数です。1つ1つの点が魚の体重を示しています。

試験結果

155日後、最も成長していたのが、かけ流し区でした。常に新しい水が入り続けるこの区は、エサ食いに優れトータルの給餌量が最も多くなっています。水質のデータも取っていますが、最も水質が良かったのはこの区でした。

次に成長が良いのが、赤虫+ペレット区です。そして、赤虫飽和給餌区がほぼ近い結果で続きます。
赤虫+ペレット区はやや成長にバラつきが出ています。ペレットの給餌は自動給餌器で行っていますが、エサが狭い範囲に固まり、魚同士で取り合いになって弱い個体の摂餌が妨げられたのかもしれません。
しかし、赤虫+ペレット区のトップ3匹は赤虫区よりも確実に大きくなっていました。

ペレット飽和給餌区はやや成長が劣る結果になっています。実は60日目あたりで病気が出てしまい、給餌量が減ってしまったことが成長に影響を与えたかもしれません。

また、ペレット3%区のらんちゅうは見た目に明らかに小さく、通常の金魚飼育では過剰といえる給餌量である3%という量では、品評会を目標としたらんちゅうの飼育には全く不足しているという事が確認できました。ペレット飽和給餌区の試験開始時の給餌量は10%を超えていました。

赤虫だけあるいはペレットだけを与えるよりも、赤虫とペレットを交互に与えた方が成長が良くなるというのは興味深い点です。

次に体形の変化の評価ですが、らんちゅうの審査でも有名な浅野敏夫氏に見て頂きました。

  • ペレット3%区
    • ペレット3%区
    • ペレット3%区 横見

    体が小さいのはもちろんだが、目先が無く顔が出来ていない。 このまま成長しても目先が無いまま成長すると思われる。

  • ペレット飽和給餌区
    • ペレット飽和給餌区
    • ペレット飽和給餌区 横見

    お腹がやや垂れ始めている。上見で見た時に腹のでっぱりが大きい。

  • 赤虫給餌区
    • 赤虫給餌区
    • 赤虫給餌区 横見

    平均的な体型で無難。色は揚がっていない。

  • ペレット+赤虫区
    • ペレット+赤虫区
    • ペレット+赤虫区 横見

    赤虫と同じく無難な体型。赤虫より大きく育っている。

  • かけ流し区
    • 水かけ流し飽和給餌区
    • 水かけ流し飽和給餌区 横見

    非常に大きく育っており驚いた。成長は申し分ない。ただ、腰高な個体が目立ち、尾が流れる傾向がある。
    水流のせいで魚が泳ぎ続けた事が原因ではないか?

写真のみで実物を見ないと分からないところもあるがという言葉とともに、以上のコメントを頂きました。

さて、成長の結果と体形のコメントを併せて今回の試験について考えました。

成長と体形のバランスが取れているのが、ペレットと赤虫の併用と言えそうです。
赤虫のみの給餌は無難な体型に育つ確率が高いかもしれませんが、赤虫のみを給餌するより、ペレットと併用した方が成長が良くなると思われます。
体形を整えるにはペレットと赤虫の比率の最適バランスがあるのでしょうが、血統や飼育方法によって最適比率は異なりそうです。

また、水をかけ流すという飼育方法はとにかく成長に優れていました。
若干水流があったのと、後半やや過密気味になっていたことが、尾びれの流れ・腰高につながったのかもしれません。
今回の試験を元に、飼育環境を整えてやれば、有効な飼育方法になる可能性がありそうです。

まとめ

今回の試験により給餌方法やエサの種類で、らんちゅうの成長に影響がある事が分かりました。
ただ、ちょっとした環境の違いやらんちゅうの血統などで、結果は大きく変化するので、決してこの試験の結果が結論と考えている訳ではありません。

さらに様々な試験を繰り返して、優れたらんちゅうを作るための、エサの内容や給餌方法を求めて科学的にアプローチしていきたいと考えています。